「あなた」との出会いがなければ…

 僕が音楽に最初にのめり込んだのは中学2年の頃でした。ラジオが大ブームの時代でもあり、音楽番組や深夜番組を聞きあさる日々でした。
 当時、大石吾郎さんがDJを務める「コッキーポップ」というヤマハのポプコン関係の音楽番組があり、この番組から頻繁に流れてくる、ある曲を聴いて、鮮烈なまでに今まで経験したことのない電流が体を走り出しました。一番多感な年頃の僕にとって、このときの衝撃は今でもよく覚えています。夢一杯広がる繊細なメロディと巧みなコード進行、透き通るような歌声は無論のこと、オーケストラのイントロ、歌い出しのピアノのアルペジオ、間奏、エンディング…などなどそれらすべてに完全に魅了されてしまいました。考えてみれば、この曲との出会いは今の僕の大きな糧になっているのはまちがいありません。

 その曲とは、小坂明子さん(1973年:当時16才)の「あなた」。長年愛され続けてきている日本のポップス史上の名曲中の名曲であるのは言うまでもありません。現在に至るまで、さまざまなアーティストもカバーで取り上げてきました。
 小坂さんは、僕の音楽人生の中で、ひとつの大きな刺激を与えていただいた方です。現在僕が趣向しているジャンルは、ヒットチャートにのるようなものではありませんが、僕の基盤、ルーツはポップスなんです。カーペンターズ、エルトン・ジョン、シカゴ、ビートルズ、近年ではデヴィッド・フォスター、そういった流れのなかで、小坂さんの存在は実はとても大きいんです。

 なお、小坂さんの経歴は僕が語るまでもありませんが、34年前の貴重なステージ映像を見て、涙する人も多いに違いありません。 

 明子さんと最初にお会いしたのは、たぶん、5~6年前、冨田勲先生が主宰するお酒の席だったと思います。僕の音楽の一面を目覚めさせて頂いたとても存在の大きい明子さんと初対面。お会いするまではとても緊張していたのは言うまでもありませんが、とても光栄なことに僕のことも知っていただいていたようで、またとても気さくな方でしたので、(お酒の席ということもあって)つい和んでしまい話しも弾んでしまいました。
 その後も、メールやネットなどを通じてお互いの活動なども伺い知れるようになり、最近では、Thprimの初ツアー千秋楽にもお忙しい合間をぬってご来場いただきました。

 さて、明子さんは約半年前にオリジナルのピアノのインスト・アルバム『Pianish』をリリースし、5月下旬からこのアルバムのツアー(「Pianish Garden Tour 2007」)を行いました。今回は僕がこのツアー千秋楽(6/2)となるブルース・アレイ・ジャパンのライブにおじゃまさせていただきました。
 このアルバムは、明子さんの作曲家、ピアニストとしての魅力が凝縮された内容で、海外からも高い評価を受けました。同じピアノ弾きとしても興味津々の内容で、どの曲もメロディがツボを突いてきます。愛苦しいまでに泣けてしまいます。とてもロマンティックな映画音楽のような…いろんな映像や情景が見えてきます。僕はとても明子さんの曲作りに共鳴してしまうし、このアルバムを聴いていると、「あなた」との最初の出会いとは、また違った視点・角度で感動が走ります。
 
小坂明子さんと ライブでは、アルバム収録曲だけでなく、今まで作曲家として提供してきた数々の作品なども演奏されました。本当に作曲家としても多彩な活動を展開しています。ピアノの演奏もとても温かい音で、美しいメロディが流れるように、ある時は水滴のように弾んで心に響いてきます。
 MCはもう明子さんワールド一色。とても貴重な裏話から、もはや自虐的なまでに正直(笑)というか、飾り気のないユニークネタ満載で笑いが絶えません(演奏内容とのギャップがたまりません~)。ステージ上でも普段の気さくさはそのまんまであります。やはり関西出身の方はサービス精神旺盛と関心(笑)。
 渡辺直樹(B)氏 梶原順(G)氏といった一流のサポートも素晴らしく、熟練したアンサンブル。ツアー最終日ということもあって、3人のチームワークもばっちりでした。ちなみに梶原氏とは同じ音楽学校出身ということもあり、数十年ぶりの再会。思い出話に入ったらきりがありません。
 明子さんは、ピアノだけでなく、たくさん歌も披露してくれました。声質はデビュー当時とは全然違うのですが、今の声もとてもステキです。そしていろんなデビュー秘話や作詞・作曲秘話を織りまぜた後、「あなた」を唄ってくれたときには、もう涙がこらえきれませんでした。
 今まで僕の中でずっと想い抱いてきた大切な曲だから、とても深く身にしみてきます。長い経年によっても色あせることのない感動、そして僕が一心不乱に純粋に音楽にのめり込むひとつのきっかけを与えてくれた明子さんに、心から感謝の気持ちで一杯になりました。

ブログ記事一覧へ