Floating Colors 制作ドキュメント

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Floating Colors

はじめに

動機

前作の『PIVOT』(2000年10月リリース/zizoレーベル)では、ジャズ・フュージョンといったスタイルの中で、スリリングでスピード感の高い音楽を目指しました。
しかし、その後ライブを幾度と重ねていくうちに、自分の持っているメロディやハーモニー、コード進行などをもっとストレートに出してみたいという気持ちにかられてきました。いろんなコード楽器やホーンなどか重厚に鳴っていては、そういったものがマスキングされてしまう傾向もあり、自分の色を“足し算”的な発想ではなく、内面を含めてより鮮明に表現してみたくなってきたのです。

そんな事を考えていた矢先、幸いなことにセカンド・アルバムの話が立ち上がりました。そこではできるだけシンプルなアコースティック編成で臨みたいという気持ちは固まっていました。当初はソロ・ピアノで、とも思ったのですが、まだピアノ1本で自分を表現しきれる段階ではないし、それならばピアノにより有機的な要素を加えてみようということで、最初に思い浮かんだのが「弦」(ストリングス)との組み合せだったのです。

金子飛鳥との再会

「弦」ということで、まっ先に頭に浮かんだのがバイオリンの金子飛鳥でした。彼女とはかなり昔、久石譲氏のプロデュースの仕事で何度か一緒になった仲だったのですが(当時は塩谷哲氏なども学生で一緒でした)、それ以後は顔を合わせる機会もありませんでした。ただ、彼女の多彩な活躍振りはいつも横目で感じながらも、かえがね「また一緒にやりたい」という想いを持ち続けていたのです。

2001年5月、久しぶりに彼女にコンタクトをとり、都内の喫茶店で再会することになりました。あまりに久しぶりだったもので、ほとんど昔の思い出話や苦労話で盛り上がってしまったのですが、やがて僕の次作の構想へと自然に話しが流れ、とりあえず一緒に音を出してみよう、ということになったわけです。

ヴァイオリンそれから数週間後、まずは手始めにウチのスタジオで二人だけのセッションを行いました。このセッションでは僕が書きためていた数曲を演奏したのですが、飛鳥の一弓から発する表情豊かな第1音から、僕は改めて魅せられてしまいました。迅速かつ的確な曲の解釈はもちろんのこと、昔から何度もデュオ演奏してきたような自然な空気感が感じられたのです。

そのとき軽くデモということでレコーディングもしたのですが、その音を今聴いても、とても新鮮です(このデモが後々大きな役割を果たすのですが)。
セッションを重ねていくうちに、徐久にアルバムの方向性も具体的につかめるようになってきました。僕自身はこの段階で、耽美かつ静寂な世界も、現代的なジャズも、そして昔からトライしてみたかったバルトーク的な現代音楽も実現できるのではないかという感触が得られたのです。ピアノ+弦楽四重奏をメインとした編成も、この段階でアイディアが広がり、そこから今作に向けた曲作り、編曲が始まりました。

笹路師匠

セカンド・アルバムをどこからリリースするかは、実はいろいろ大きな流れがあり(この辺を書くと長くなるので割愛)、ご迷惑をかけてしまった方もいたのですが、最終的には関係者各位から寛大なご理解を頂くかたちで、日本コロムビアのマジックノーツ・レーベルから出すことに決まりました。日本コロムビアは昔からいろいろと制作仕事をいただいてきた経緯があり、知り合いのディレクターを通じたりしながら、僕が弦と一緒にやるユニットの噂やデモがマジックノーツの総合プロデューサーである(そして長年の師匠でもある)笹路正徳氏の耳にも入り、もろもろの流れでお誘いを受けるかたちになりました。笹路氏はちょうどマジックノーツの5枚目を模索していた時期でもあり、企画的にもタイミング的にも僕のやろうとしたこととうまく合致したというラッキーな背景があったのです。

笹路師匠と僕の関係はThat’s DAN!! 第5回: 笹路正徳氏を参照していただくとして、とにかく音楽に本格的にのめり込んだのは、笹路師匠という大きな存在があったからといっても過言ではありません。その師匠のもとでアルバムが作れるとなれば、それはまさに“狂喜”としか言いようがありませんでした。笹路氏とはかなり昔からの関係でありながら、ここ数年は顔を合わせるのも希で、今まで一緒に仕事ができる立場でもありませんでした。

笹路師匠今回の笹路氏のプロデュースのやり方は、選曲やアレンジの基本的な考え方などの事前の打ち合わせは行いましたが、レコーディングの現場では自由にやらせて頂きました。「おまえもキャリアがあるんだから、いちいち細かい事を言わないよ」という感じだったのですが、それでも、僕が譜面上で悩んだ点などは、何も言わないのに完全にずばり指摘されたり、何をやっても僕が思案している事などは簡単に見抜かれてしまうのです。とても大きなところから見守られている感じで、自由にやらせてもらっている反面、僕自身は張りつめた緊張の連続だったかもしれません(笑)。今までのマジックノーツの作品はどれも素晴らしいし、僕の作品でレーベルの質を落としてはいけないという意識も当然ありました。

今回、師匠と一緒に仕事をやらせて頂いたわけですが、実際には昔の関係がなんら変わらぬまま引き継いでいる感じで、音楽の技巧的なことだけでなく、 音楽に対する姿勢の在り方などもいろいろと勉強させられました。現場の進め方などでよく怒られたりもしましたが(笑)、今回のレコーディングを通して、こうした師匠が僕の側にいるってことは、本当に幸せなことなんだと実感しています。昔も今も全然変わりなくきてるんです。これが嬉しいんです。

本作に向けた曲作り

笹路氏は、よく僕に「とにかく弦楽四重奏のアレンジは手間がかかるし、アレンジの難易度も非常に高い。オーケストラのスコアを書く方が全然簡単。しかも、そこにピアノが入れるとなれば、ものすごい苦労するよ」と申しておりました。確かに弦楽四重奏とピアノを対価に扱った作品が今までほとんど聴かないということからもそれは伺え知れます。

師匠がこの編成で完成度の高い音を作るのが難しいというのだから、それは謙虚に受けとめられたのですが、「だからこそ、やってみたい」という意欲を書き立てられたのも事実です。僕自身、ポップス系やゲーム系の音楽制作などで生弦のアレンジを何度か経験してきたものの、弦楽四重奏のアレンジは実質、初めてです。大編成のストリングスとは違って、各ラインの責任感や重み、横のフレーズ(メロディ)・ラインと縦軸(ハーモニー)の関係も、より緻密になってくるし、室内楽的な質感も要求されてくるのは言うまでもありません。そこに、主人公でもある僕のピアノをどう絡めていくか….、考えるだけでもスリリングで今作に向ける気合いが高まってきたわけです。

僕自身、長年、音楽を作ってきましたが、これだけ長く仕事として音楽をやっていると、良い意味でも悪い意味でも、ある種、仕事用のパターンみたいなものができてしまいます。若い頃のように音楽を新鮮に見られない面もありました。だから、これからの自分の基盤になるようなものをこのアルバムを通じて、じっくり勉強をしてみたい、という気持ちにもかられてきたのです。また、僕自身、クラシック出身ではないので、逆にその部分でもこの編成でおもしろい音にトライしてみたかったというのもあります。

ピアノ飛鳥とのセッション以来、曲作りを進めていましたが、習作を含めると、曲作りとアレンジで半年近くもかかってしまいました。曲作りは、ピアノを軸にしたり、弦を軸にしたり、いろいろなイメージがありましたが、大枠の曲作りはスムーズに進められました。しかしながら、やはり想像以上に弦楽四重奏のアレンジは難しかったのです。たとえば、セクション系の編成の大きいストリングスだと1ラインを、何人かの人で演奏しますが、弦楽四重奏の場合には、基本的に1ライン1人になります。1ラインを大勢の人数で演奏したら、それだけで音も厚くて豊かな倍音が得られるし、広がりも期待できますが、弦楽四重奏だと1ライン1人だから、実際に書いた時のイメージ以上の偶発的な広がりとかがあまり期待できないというか…。それぞれのラインが鮮明に見えているから、アレンジ的に全然ごまかしがきかないのです.

また弦楽四重奏だけで音を完成させてしまうと、ピアノを入れる隙間がなくなってしまいます。ヘタに入れれば、せっかく苦労して書いた弦の内声の動きをマスキングしてしまうし、簡単にアンサンブルを濁してしまいます。両手一杯に使えるピアノの音域の広さというのも、この場合では邪魔なものなのです。だから、ときには弦全体とピアノを音域的に分離させたり、内声部にピアノを配して上下に弦を配置させたり、あるいは両者を未完状態でアンサンブルさせて補完し合わせたり、とにかく、この辺は試行錯誤の繰り返しでした。種々の対位法的なアプローチやメロディに対するハーモニー処理も、僕のスキルでやれることは全部注ぎ込みました。実際のアレンジ作業は、弦メンバーを呼んでやるわけでにはいかないので、打ち込みでシミュレーションしながら進めた曲もありますが、それもあくまでも音符の視覚的な確認にすぎません。

とにかく、一聴するとメロディアスで気持ち良く聴こえる場面でも、そこには、さまざまな音楽的なアプローチを隠し込んであるので、その辺も、ぜひ聴いていただければと思っています。

コンセプト?

このように音楽的な苦労話を延々と綴ってしまうと、ともすれば音の方は、神経質で難しい内容を想像されてしまうかもしれません。しかし、実際に音を聴いてもらえばわかると思いますが、アルバム全体は、いわゆるヒーリングやリラクゼーション・ミュージックというジャンルで括ることもできるでしょう。実際、このアルバムに向けた僕の想いは、“心地よい刺激”と同時に(それ以上に)“内面にある深い優しさ”にあります。ヒーリングと受けとめられるのは全然かまいません。無論、現代曲やアバンギャルドな側面も感じられると思いますが、それらは、僕の“あこがれ”でもあり、クラシックのカバー曲にしても、自然体で自分の音楽をそのまま踏襲させただけです。

正直言ってしまうと、今作は何をやっても勉強だったし、それが音楽を覚えたての頃のように楽しかったのです。「こうしなければいけない」「ここを聴かせてやろう」といった気負いはまったくありませんでした。ありのままの自分がここにあると思います。

Floating Colors

ジャケットのデザインで使われている絵は、モジリアニの「ネクタイの女」です。この絵を見たとき、内面を深層的に伝える顔の表情や全体の色合いに強いインパクトを受けました。僕の音のイメージとも上手く調和されている感じでスタッフ一同、満場一致の選択となりました。

最後にアルバム・タイトルの『Floating Colors』は、そのまま「浮遊色」の意です。全体的に浮遊的をテーマにサウンドを目指した点もありますが、加えて、聴く人、それぞれに自由な色の空間や拡がりを感じてほしいという思いで付けました。日々の生活のなかでこの音にゆっくりと身を委ねてみてください。

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