映像と音楽

 映像と音楽…この結びつきは、音楽をやっている人にはとても興味深いテーマでしょう。今までアニメ、映画、CM、企業VP、イベントなど映像絡みの仕事をしてきて、その制作現場にいると、音楽の要素は実は自分が考えているよりも実は「部分」の存在であると感じてしまうことがあります。こういったときは、得てして音楽を作っているときに、こだわり所をしっかり見極められなかったときなのですが、音と映像の結びつきや調和、または音と絵の説得力のあるコラボレーションなしでは、当たり前ですが、音楽そのものの評価にはつながりません。
 映像を単純になぞる音楽、逆に映像イメージを先導して引っ張っていく音楽、映像に対する音の役割は目的、ニーズによってもさまざまですが、いろんな角度から音楽のイメージを引き出す思考はとてもエキサイトするし、音楽の中でも格別なやりがいを感じます。だからうまくいったときは、本当に嬉しい。

 さて、昔から映像と音楽の分野は、「餅屋は餅屋」と暗黙的に切り離されてしまいがちですが、音楽の立場からだって当然、映像には興味を抱きます。ただ、映像分野は何となく敷居が高そう…だし、ただでさえ日進月歩、進化する音楽制作環境の中に高価な映像アイテムなどを導入するのは尻込みしてしまうところです。
 そんな、こんなことを思っている最中…、映像に対する新たな認識を体感できるタイムリーなお仕事をいただきました。

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 電子楽器の分野ではメーカーの垣根を越えて機器間のコミュニケーションがとれるようになったのは、いうまでもなく汎用規格であるMIDI規格発足からで、そこから電子楽器の市場も一挙に拡大されました。そして、同じような標準規格をベースにして電子楽器アイテムと映像機器を結びつけるために提唱されたのがローランドのV-LINKという規格です。
 このV-LINK対応機器は、2002年よりすでに40万台が出荷されているとのこと。みなさんのお手持ちのシンセなどにもこのV-LINKマークがついている方も多いことでしょう。しかし、このV-LINKは「楽器などから映像機器をコントロールできるもの」とわかっていても、実際に活用している人は少なく、業務ベースとしてもまだ市民権を得ていない状況のようです。
 そこで、このV-LINKへの認知をもっと広める趣旨のもとに、ローランド主催による「V-LINKカンファレンス」が3/5、都内ホテルで行われました。当日はソフト/ハードの楽器業界、映像業界、それに多くのプレス関係者が集まり盛況な会となりました(アメリカ、ヨーロッパでも開催)。
 ローランドの創始者(現在、特別顧問)であられる梯 郁太郎氏はかねてから楽器だけでなく映像関係にも造詣が深く、僕も幾たびか、その熱い想いを拝聴してまいりました。今回、梯氏が自ら語るという点からも、スペシャルな席であるし、多くの業界人が集う衆目の中で僕が効果的なデモをしなければならなかったので、その緊張度はいつもの倍加であります(笑)。
 恥ずかしながら、お話を頂いた時点で僕自身はV-LINKに関しては無知に等しい状態でした。デモができたのもスタッフや技術陣からのサポートがあったからに他ならないのですが、その上で加えますと、V-LINKは実はとてもシンプルで使いやすいものでした。MIDIと同じ感覚で使いこなせるでしょう。それでいて映像は「目から鱗」の連続…。これを使わない手はないなぁと思った次第。

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 まず僕が行ったデモは、デジタル・ピアノRD-700GXとMotionDiveTokyoの組み合せで、僕のピアノ演奏に合わせて映像がさまざまに変化します。例えば、花びらの数は和音数、音の高さによって花びらの位置や角度が変わり、タッチの強さによって花びらなどの大きさが刻々と変化し、舞い散らせたり回転させながら落下させるのは僕のピッチ・ベンダー操作に委ねられているといった感じです。
 また、ビジュアル・シンセサイザーCG-8は、静止画(jpgなど)を例えば3D立体、球面体、チューブ状、水紋状などに瞬時に変化させたり、しかもそれをパッドやつまみでリアルタイムでアクティブに動かせるというもの。通常のパソコンベースだとレンダリングに何時間(場合によっては一晩)も要するCG処理を何と瞬時にリアルタイムで自由にコントロールできるという機器なのですが、これにV-LINK対応の最新シンセFantom G8とMIDI接続したデモも行いました。
 僕の音色切り替えによって背景画が次々に変わり、音程や和音の動きに応じて立体画像で動き出し(というか、生み出す)、ピッチ・ベンダー、Dビーム、モジュレーション・ホイール、パッドなどのコントローラーの動きによって、映像も意のままに多彩に変化させられるわけです。言葉で表現するのはなかなか難しいのですが…。とにかく、よく見るビデオ・クリップのエフェクトとはまったくレベルの違う映像変化です。
 大きなポイントは、ビデオ映像に合わせて僕が演奏するのではなく、僕の演奏によってリアルタイムでしかも瞬時に映像が生成されていくところにあります。リアルタイムで演奏される音楽と映像がリアルタイムで融合させられるという点がV-LINKのすごさでしょう。
 言い方を変えると、映像は演奏内容を察知・予知して自動変化するわけなく、映像に変化を与えるのはあくまでも奏者の役目です。映像に効果的な変化を与える点も考えながらコントローラーをいろいろ操作して演奏しなければならないので、最初はちょっと錯乱しそうにもなりましたが、リアルタイムに映し出される映像を見ながら演奏していると、また違った感性が刺激されて演奏にも相乗的な変化をもたらせてくれます。これは今まで経験したことのない新鮮なものでした。ちなみに、何より、当日のデモが一番うまくいってホッとしたのですが(笑)。

 従来、音楽と映像というと、なにかとプライオリティは映像にもっていかれがちです。しかしながら、音楽の演奏、表現によって(くどいようですが、リアルタイムで)新しいアート映像やスペシャルな効果が生み出せるとなれば、映像と音楽の関係も今後、新たな次元でまだまだ発展していくに違いありません。

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