第5回: 笹路正徳 氏

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篠田 篠田
今回は大量にのせますので、よろしくお願いします。
笹路 笹路
うん、よもやま話をすればいいんでしょ。
 篠田
本当に久々ですね。ゆっくり話しましょう。
 笹路
布川(注:笹路さんの高校時代の後輩でもある)と一緒のバンドじゃ、難しい曲をやってそうだなあ。布川も、テクニック派・理論派って感じだもんね。
 篠田
最近はクラブ系の曲とか、やってますよ。ジャズ・バンドって感じは全然ないですよ。
 笹路
あ、そうなんだ。
 篠田
うーん……、僕もジャズは好きだけどそれだけじゃ生活できないでしょう(笑)。
 笹路
ああ、生活ね……。そりゃ苦しいくらいのほうが、ジャズらしくていいんじゃないの(笑)?わかんないけどねぇ、無責任なこと言っちゃった(笑)。だってジャズやっててさぁ、お金持ちにはならんだろー。
 篠田
だからというわけじゃないけど、大半の人は先生や講師をやってますよね。
 笹路
うーん、それもいいだろうけど…。昔から作曲家とかはね、モーツァルトだって、最後の方はお金なかったみたいだしさぁ。
 篠田
あ、そうなんですか?
 笹路
んー、なかなかみんな苦しかったみたいじゃん。だから、宮廷で雇われたりすれば、ってのはあると思うけどねぇ。モーツァルトだって最初から目標はソレだったわけでしょ(笑)。オレはラヴェルなんか好きなんだけど、彼も晩年は生活、苦しかったみたいだしね。だいたい音楽家なんて、そんなもんだろ(笑)?
 篠田
ウーン……(苦笑)。
 篠田
ところで、笹路さんの口からビル・エバンスとかハービー・ハンコックとかじゃなくてラヴェルとか、いろんなクラシックの作曲家や指揮者の名前がでるようになったのって少し意外かなぁ……。
 笹路
入り込みだしたのはねぇ、ここ数年なんだよ。もちろん、ジャズもよく聴いているけど。
 篠田
クラシックだと、どの辺を?
 笹路
20世紀前後だよね。1800年代ケツから1900年代の頃だよね。あの辺の印象派とか。フランスのは好きだね。ドイツのはあんまり好きじゃないんだけど。
 篠田
例えばもっと古い……、バッハとかは?
 笹路
その辺は聴かないね。モーツァルトとかはね、今年の目標なんだけどね(笑)。篠田は?
 篠田
ごく、たまに聴きますけど。気分転換程度で。でも正直言って気合い入れて聴くほどじゃないです(笑)。
 笹路
あーそう。モーツァルトねぇ、昔はどー聴いても面白くなかったんだよね(笑)。でもなんかさぁ、あれだけ良いっていうのはさぁ、何かあるんだと思って。 そこまで行ってみようかなあと思ったんだ。ジャズでも、オレ、セロニアス・モンクが良いと思ったの、40過ぎてからだもん。わかんないよ、あんなの(笑)。
 篠田
笹路さんが、そのようなクラシックに引き込まれるのは、形式的な部分の良さみたいなものですよね。魅力は「楽曲」自体、オーケストレーションということですよね。
 笹路
そうだよ。まずラヴェルはオーケストレーションがスゴいんだよ。リムスキーコルサコフなんかもさ、オーケストレーションの魔術師なんて呼ばれてるけど、それは もうちょっと前だよね。だからジャズでもさあ、モダンジャズとか、マイルスの例の黄金のクインテットなんか、最後の方なんて、もう、できちゃってる!もんね~。あれ以上はないって言うか。
 篠田
そうですね。あのサウンドがなければ、今のモダンジャズは考えられないでしょうね。
 笹路
そうだよ。だから、(マイケル・)ブレッカーとか、(パット・)メセニーとか、ウィントン・マルサリスだとかがでてきても、やっぱりあれ以上ってのは。ちょっと考えられないよね。
 篠田
それを超えるものがない、ということですか?
 笹路
うん、あのフォーマットの中での話しだけどね。だってマイルスだって、『ネフェルティティ』の次に、『ジャック・ジョンソン』とかやってるじゃん。だからそれはそれで、また凄いんだけどね。ネフェルティティあたりで、もう、アコースティックのモダン・ジャズは、完成をみてると思うんだよね。
 篠田
一見開拓された新しいスタイルといっても、すでにやられているわけですね。
 笹路
だから、古典的なフォーマットの中で、オーケストレーションもどんどんモダンになっていくわけじゃない。そういってると、そこの辺で、やっぱり完成されてると思うんだよね。あとは、現代音楽にいっちゃうじゃない?
 篠田
ふーむ。
 笹路
だからそれをさ、フリージャズみたいなモンだって言っちゃってもいいと思うよ。なんか、ひとつの調性の中での完成形みたいなものを、あそこらへんで見ちゃうんだよね。
 篠田
ふーむ。
 笹路
だけどね、ラヴェルはね、曲が良いよ。「スペイン狂詩曲」とか一連のバレエ曲とか、結局、全部いいね。
 篠田
僕は、ラヴェルは感覚的には好きだけど、サウンドの響きとしてはバルトークとかストラビンスキーの方が今に通じるモダンさがあって好きですね。冨田先生も、戦時中、拾ってきたラジオから、それまでこの世になかった響きが流れてきて、一体何なんだ、と思って、知ったのがストラヴィンスキーの「春の祭典」と言ってました。
 笹路
オレ、ストラヴィンスキーも好き。「春の祭典」、「火の鳥」、「ペトルーシュカ」の3大バレエとか。
 篠田
冨田先生も、笹路さんと同じようなこと言ってましたよ。これらを越える新しいモノはないって。手法的なものとして定義できるのかな?
 笹路
いろいろ意見はあると思うけどねぇ。でも、結局は個人的な趣味なんじゃないの?(笑) ドビュッシー好きな人だっているしさ。オレ、好きじゃないもの。でも冨田さんは「月の光」やってるよね。ドビュッシーの。
 篠田
ええ。あとストラビンスキーやラヴェルなどの一連の代表作はやっています。冨田先生と一緒だと、かなりその辺の趣向を熱く語りますから。とても勉強になります。
 笹路
そうかそうか、それをシンセサイザーでやってるんだよね?
 篠田
昔はそうでしたけど、今はこだわりなく、積極的に生も使いますよ。先日の「源氏物語」では、オーケストラ、和楽器、シンセというアンサンブルだったし。
 笹路
それは、おもしろいだろうね。
 篠田
ええ。それに関連して、ちょっとおもしろい話があるんですけど、昨年、幸運にもロンドンフィルと一緒に演奏できる機会があったのですが、 イギリスのオーケストラの人達って、まだシンセに対する偏見みたいなものを感じましたよ(笑)。
 笹路
まだ、するんだ!?
 篠田
ええ(笑)。ロンドンフィルと最初のリハで、ソリストは演奏紹介ということになったわけですよ。和楽器の人達は楽器自体もめずらしいからウケるんですけど、僕ひとり電子楽器なので、何したらいいのかわからなくてー。たまたまチェロの良い音を用意してあったものだから、それでチョコチョコっとクラッシックぽいの弾いたんですよ。そしたら、一斉にサーッって引かれちゃって(笑)。
 笹路
 篠田
要するにけしからんっていうか……。そういう音を鍵盤から出すなっていうか、そういう空気が……(苦笑)。それとも、単純に演奏がヘタだったからかな(笑)。
 笹路
へえ? でもねえ、オペラ見に行ったらシンセ入ってたって言うのもあるよ。
 篠田
すべてが、というわけじゃないんだろうけど、やはりオリジナルの伝統を重んじますからね。
 笹路
ロンドンだけ?
 篠田
ええ、アメリカなんか、全然平気でした。「グリーン・ドルフィン・ストリート」をリハの合間に弾いていたら、コンバスの人が合わせてプレイしてくれたから(笑)。
 笹路
イギリスは街並みがもう、既にそうだからね。伝統というか……。
 篠田
だから、コンセントひとつにしても3口の馬鹿でかいヤツを使っているじゃないですか。基本的に“古いモノは良いモノ”というのは、いろんな場面で感じます。そういえば、昔、メロトロンも問題になったじゃないですか。それと同じ状態っていうか。
 笹路
ああ。そうだね。あの時は、仕事がなくなるからって、なんか組合的なものだったけどね。

 篠田
あ、えっと話し戻りますけど(笑)。笹路さんはもともとジャズやフュージョ ンやっていたわけじゃないですか。その後、ポップスとかの商業音楽に入ってプロデューサーになるって……。それって、自然な流れでそうなったんですか?
 笹路
あのねー、もともと小学校1年くらいに、ベートーベンやチャイコスフキーなんかの交響曲にものすごい入り込んじゃった時期があったの。いや幼稚園の年長の頃からかなあ、毎日「運命」聴いてたり。
 篠田
エッ?それは当然、親の影響ですよね。
 笹路
そうそう、親がよくレコード買ってくるんだよ。で、ステレオで朝から晩まで、ちゃんと一楽章から。ずっと聴いてたんだよ(笑)。それで目覚めちゃった、ってのはあるかな。
 篠田
もちろん、それだけじゃなかったわけですよね。
 笹路
うん、だってオレ、小学校2年生くらいになったら、ビートルズとかベンチャーズに行っちゃって。そしたらそっちのけになっちゃって。ビートルズと共にクラシックが消えたというか(笑)。まあ、ピアノ習ってたから、ショパンとかはたまに聴いたけどね。
 篠田
そうやってきて、再度、今クラシックに入り込むきっかけは何だったのでしょう?
 笹路
あのねー、ひとつはステレオを新しくしたの。それも大きかったね。これが、笑っちゃうくらい楽しいんだ。クラシックを聴くのが(笑)。ジャズとか良く聴こえる装置はあるけどさ、クラシックはなかなかないじゃない。
 篠田
なるほど(笑)。じゃ、そのステレオを活かす上でも、ダイナミック・レンジが広い音楽ってことですね。
 笹路
そう……だけどー、クラシックは、周波数の上と下が広がってるのに、その、ローエンド、ハイエンドの量自体が少ないんだよ。アタックとかリリースの部分も良い音がするんだ。
 篠田
なるほど。
 笹路
オーケストラとかだと、アタック出るのって打楽器くらいじゃない。あとピチカートとか。ハイハットずっと刻んでたり、スネアが2拍4拍で入ったりはしないじゃない。まあ、「ボレロ」みたいのはあるけど。だから、やっぱり余韻なんだろうねえ。
 篠田
結構、オーディオマニアなんですね(笑)。
 笹路
いや、そういうわけじゃないけど……。ただクラッシック聴くのと、ロックやジャズを聴くのとは、別のステレオで聴いてるんだよね。だから、その分、僕は部屋に楽器が全然ないんだよね。
 篠田
そうか……。なんか、それは結構ショックだなあ(笑)。
 笹路
あ、そう? でもそうすると、例えばスタジオでずっとこういうのなわけじゃない(ヤマハのNS-10Mを指さす)。15年くらい。今までこういうのがリファレンスになってきちゃってるんだよね。 だから、おかしいんだよね。そんなことは。
 篠田
あ。10Mのことですか?
 笹路
そうそう。だからそれが基準ってなってたら今の時代おかしいよね。だって設計も古いじゃない。密閉でさあ。低音も全然でないし。
 篠田
まあ、確かに今だにこれがリファレンスになちゃうってのはね……。この以前のオーラトーンとか(笑)。今ならジェネリックとかもいろいろあるけど。でも僕はまだ10M信者です(笑)。
 笹路
うんうん。
 篠田
でも思うんですけど、例えばクラシックなら3角ポジションで聴こうってのがあるけど。今の世代の若者って“ナニナニしながら~”って感じで聴くじゃないですか。僕たちも含めて集中してステレオを目の前にして「音楽を鑑賞するぞ」っていうケースが減ってきたような気もするんですけど。
 笹路
まあね。でもまったくいないわけでもないだろー。そう言っちゃうとね~。非常に自分が何をしていいのかわからなくなっちゃうよね(笑)。仕事している対象はね、絶対真ん中で聴く人間! 僕はね。 音楽好きなやつは絶対そうやって聴いてると思うんだよ。
 篠田
ええ。でも仮にクラブ・ミュージックなんかだと、強烈な4分打ちのキックで体に刺激を与えるのが目的で……。テクノなんかにしても、なかには音楽的なものがどれだけあるのかなあ、って思えるものもあるんですよ。もちろん、良いものもたくさんあるけど。例えば、笹路さんの中で、DJってミュージシャンって呼べるものなのでしょうか?
 笹路
ウーン、一色単にしていいのかな?って問題もあると思うけど。今ね、趣味で何が一番好きかって言われたら、それこそブリストル系とか、マッシヴアタックとか、ポーティスヘッドとかね。あそこらへんの打ち込みとかは興味あるよ。ネリーフーパーとかおもしろい。盛り上がって、かっこいい~っていうの、それも時代性だからね。ああいう音場っていうのは今の機材でないと出せないって言うか。完全 にPro Toolsの音だーっ、みたいになっててさ。だからあれがないと作れないって音があるし……。
 篠田
職業意識的に聴くことも多いのかな(笑)?
 笹路
というか、なんか昔で言うプログレのように聴けるじゃない(笑)。 そういう感覚に近い。だからやっぱり、ああいう最先端の音楽というのは聴いておかないといけないんじゃない?もちろんつまらないのもあるけどさ。おもしろいのはおもしろいしね。レディオヘッドとか……。ロックはやっぱり面白いよね。
 篠田
笹路さんと話していると、多面性たっぷりですね(笑)。
 笹路
でも基本的には一緒だよ。ロックもジャズも。もちろんその中にフォーマットはあるよ。約束事。だけど、カッコイイ、とかジーンとかは一緒じゃない。

 篠田
話しは変わるけど、笹路さん自身でクラシックのコンサートをプロデュースするという計画はあります?
 笹路
それはしたら面白いと思うけどね。ただそのまんまピアノ・コンチェルトやっても、意味ないじゃん。こっちは。だからその中に面白い企画を入れるとかね。自分で曲を書くとか。あんまりコンチェルトって好きじゃないんだけどね。
 篠田
弦楽モノとか。
 笹路
そうだね。ピアノは……、あんまり好きじゃない。
 篠田
えー?
 笹路
なんかね。昔からあんまり好きじゃない、よくよく考えてみたら。
 篠田
えー?
 笹路
聴くのもねー、あと弾くのもあんまり。まあ、ハービーは最高に好きだけどね。ビル・エヴァンスとかも。
 篠田
オレなんて、でも笹路さんのピアノを聴いて育ってきたようなもんだから~……(苦笑)。
 笹路
おもしろかった時期もあったけどさ、昔からピアノ習ってるのも好きじゃなかったしさあ。幼児体験もあるわ(笑)。母親がスパルタでさ、夏休みになったら練習が2回できるわね、って、丸いグラフに何時から何時迄って練習時間、書かれて。
 篠田
えーっ、お母さんピアノの先生でしたっけ?
 笹路
いや、歌はやってたけどね。で、グラフの時間を赤で塗りつぶしていくの。なんかそれ以来、赤い色がトラウマになっちゃってね(笑)。
 篠田
(爆笑)じゃあ、大学行ってジャズピアノをやろうと思ったのは、たまたま自分の持ってた楽器だったからとか……。
 笹路
うん、ほんとはギターやりたかったんだけど。コレは本能的に伸びないなって、思ったから。
 篠田
でも今はあまり弾かないじゃないですか。
 笹路
弾いてるよ。人前ではやらないけどね。レコーディングとかで。16打ちとか(笑)。

ツーショット

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