第5回: 笹路正徳 氏

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 篠田
音楽の右も左もわからない18才の頃、笹路さんのプレイを見て、わあ、すごい人だって思って……。笹路さんもとても意気盛んで……。で、オレ、あのままバキバキ、プレーヤーとしていっちゃうと思ってたんですよ。今のような穏やかな笹路さんはあまり予想してなかった(笑)。
 笹路
そうだねぇ。若い頃はホント、トンガリまくってたもんね~(笑)。
 篠田
コワかったですよ(笑)。
 笹路
ほんとね~、イケイケだったもんね。若い頃。でもさ、またクラシックの話しに戻るけど、若い頃ってアッチェレして、イケイケの凄いヤツが多いんだよね。年とってくるとインテンポにどんどん近くなってくるみたいだね(笑)。
 篠田
それって、笹路さんの音楽以外の他のいろんな要因があるんですか?
 笹路
そりゃ~、40年近く生きていればいろいろあるでしょう。
 篠田
生活感?
 笹路
それはあんまり関係ないかなあ。でもね、生活感って単語がでちゃうとね、やっぱりオレは生活感のない音楽はダメだと思うよ。要するに生活感てのは、所帯じみてるってのじゃなくて、人生すべてというか……。人間性が出ないと。やっぱ表面的に音楽やっている人って、そこに人間性が見えないよね。スゴイ人って、なんかこの人ってこういう人なんだ、ってのが見えるじゃない。それが生活感だよね。
 篠田
うーん……。
 笹路
……と思うんだけど。だから音大出身の人って使える人、あまりいないんだよね。かえって音大行っていたがために、ジャズやロックみたいにクラッシック以外の音楽にすごく甘いところがあるんだよね。だから、音大でちゃんとしたこと、教えてないんだよね、楽器の技術や楽典的なことしか教えてないじゃん。一番教えなくちゃいけないのは、やっぱ人間的なところだよね。
 篠田
うーん……。
 笹路
……そうだよね、やっぱりルイ・アームストロングが歌えばさ、素晴らしい人なんだろう、ってきがするもんね。スティービー・ワンダーとかね。

 篠田
笹路さん、普段CD聴いてるときって、フラットなリスナーの立場で聴くようにしていますか?
 笹路
そうだね。あ、でもアレだよ。たまには、“あ、こんなことやってるな”って思っちゃうよ、やっぱり。
 篠田
分析したりとか……。
 笹路
だからさ、スコア見てる時はやっぱり、なるほどね~とか思って、たまには分析してね、ココは絶対変だと思うところは赤ペンで線ひいたりして、そういうふうに聴くと、瞬間は縦に聴こえたりするけれど……。もっとボーっとしたり、音楽的に聴くとそこは別に変に聴こえなかったりするんだよね。そこでまた理論が変わっちゃうわけだよね。だから、そういうように聴いているのは、ある程度仕事と直結しちゃうけど、でもね、たいがいウチでは素人っぽく聴いているよ。
 篠田
そうなんだ。
 笹路
だから寝転がって聴くこともあるしさ。だからジャズなんてさ、最近の新しいやつは、スネアがセンターにいてさ、タムが流れてたりして、わりとステレオでドラム・セットきてたりすると、ベースはちゃんと真ん中において、ピアノ広がってたりとか……、ああいうの、あんまり好きじゃないんだよね。
 篠田
その辺は定位バランスからくるからでしょうね。
 笹路
そうなんだけど、古っぽいからいい、っていうんじゃなくてね。アコースティックなジャズだとね、ドラム左にいたりとか、まあ低音楽器は真ん中にいた方が座りがいいんだけど、ピアノとか右にいたり、いわゆるライヴハウスで聴いてる定位ってのが、一番落ち着くんだよね。
 篠田
最近のジャズでも、傾向的にはそういうも結構ありますよ。
 笹路
ああ、そうなんだ。その方がいいよね。
 篠田
とはいっても、マイナスワンになるほどふってないけど……。
 笹路
ああ、モノっぽくね。三点定位が一番落ち着くよね。これだとちょっとセンターずれようがどこで聴いてようが、音楽には全然影響ないでしょ。今の、わりとステレオでくるやつって、センターで聴くのが圧倒的にいいわけじゃん。ちょっと外れると効果半減じゃない。
 篠田
アレじゃないですか?ヘッドフォンとかウォークマンとかで……。
 笹路
ああ、それもあるかもしれないね。
 篠田
ところで、ホントくどいこと聞いちゃうんですけど、さっきの削ぎ落とすって部分でふと思い出しちゃったのが、笹路さんに昔、マイク・マイニエリのプロデュースで香津美バンドをやってた頃、“篠田、オマエわかるか?うっすら影でパッドがなっているんだよ。絵でいえば下地を描いたようなもんだ。”って聞かされました。覚えてます?
 笹路
ああ、それをマイク・マイニエリがやめろっていったやつだ。
 篠田
それそれ。いわれるまでその音の存在にすら気がつかなかったんですけど……。 今の笹路さんにはそのようなパッド・サウンドは不必要なもの、になるわけですか?
 笹路
そのエピソードってね、自分の中でもすごく印象に残ってるんだけどさ。その時はそういうのに凝っていた時代だったんだね。シンセサイザーにも凝っていたし。で、マイクは“その音は聴こえないからいらない”って。それはねえ、ある意味で正しいと思ってるね、今は。
 篠田
やっぱし、そうですか。
 笹路
その後そういう、ホワ~って音はレコーディング的というか、ポップスのアレンジ的に言えば、空間を埋めてるってことだよね。それって、メリットもあるだろうけど、デメリットがある場合の方が、多いような気がするね。ただ、それこそオーケストラになれば、聴こえない音ってたくさんあるじゃん。それも醍醐味なんだよね。
 篠田
そうなんですよね。オーケストラのスコアを見ても、基本的にそんなたくさんのラインが独立で動いているわけじゃないじゃないですか。聴こえないようなパートも実際に譜面見て気付くとか……。あれって、音色効果というか……、あれ抜いちゃうと違うのもあるだろうし、なくてもいいのかもしれないし……。
 笹路
うん、そういうのいっぱいあるよね。
 篠田
そういう、聴こえる音と聴こえない音で、笹路さんの持ってる……。
 笹路
あのね、マイクとやってた頃の話しってのは、それこそオーケストラの巨匠が、曲中にこの木管のラインがどういう意味をもっているかっていうような、そういうのよりは、全然低レベルな話しよ。ほんとに(笑)。だから、ああの時点の話しで言えば、マイクの方が、ちゃんとした視点でみてる意見だったと思う。今思えばね。
 篠田
うーん……。
 笹路
だから、そういう意見に反発する意気盛んな若者って、今いないしー。……カワイかったと思うよ。ちゃんと反発してるんだから(笑)。だけど、意外と後で反省しちゃうんだよね。後になって相手の意見を考えてみると、アレはねえ、やっぱりマイクの方が正しかったかもしれないね。
 篠田
そうですか(笑)。
 笹路
うん、だって今聴いてもこのパッドがいいわ、なんて思わないもん。だからきっとあまり良くないんじゃないか?
 篠田
うーん……。
 笹路
だから、クラシックでさ、この音聴こえないのに効果あるのかな、ないのかな~、ていうのはもっと高レベルな話しだ。そこだって、指揮者が変われば聴こえてきたりするわけだから。
 篠田
そうなんですね(笑)。
 笹路
だけど、レコーディングとかで聴こえない音とか、マスキングとかはあるじゃない。ああいうのは楽しいところだよね。音楽の。
 篠田
オーディオ凝ってるってのは、聴こえない音を聴きたいっていう部分もあるんじゃないですか?(笑)
 笹路
そうでもないかな(笑)。例えば、篠田なんかが自分のスタジオでやるっていったら、やっぱりモニターって感覚でしょ。モニターってのは、あらゆる意味でチェック機能だよね。慣れてるってのが第一でさ。クセがないとか、周波数があまり飛び出てないとかね。分離が良いとか。オレはね、ウチで聴くのはそういうのじゃないのがいいの。ちょっと悪いモノでも、良く聴こえちゃったりとかね。そういう懐が深い、ゆとりがあるほうが、楽しんで聴けるかな。だから、分離がいいとは限らないから、聴こえない音も出てくるよね。だけどやっぱり雰囲気だったりとかさ。クラシックなんて、あんまりハッキリした音で聴いたらつまらないかもしれないね。
 篠田
車の中では?
 笹路
車の中じゃ、音楽聴かない。
 篠田
聴かないんですか?
 笹路
うん。昔は聴いてたけどね。
 篠田
笹路さん、昔は車で聴くのがひとつの判断になるって言ってましたよ……。
 笹路
そんなこと言ってた(笑)?
 篠田
ハイ、車に乗せられて、よく“オマエ聴け!”とか言われて(笑)。
 笹路
そうだっけ??今は聴かなくなっちゃった。いや、いま売っちゃったけど、前にポルシェ乗ってたとき、エンジンの音がうるさくって聴こえなくてさ、全然(笑)。その時のクセがついちゃって……。たまに聞いても危ないしね。まあ、車で音楽聴くとリラックスするかもしれないけど。でもあの緊迫感がたまらなくてさあ、スポーツ・カーの。
 篠田
今は、ベンツですか?
 笹路
今は、BMWのワゴン。チャイルドシート付きだ(笑)。

 笹路
いやあ、20年以上もやってれば。あの、清水靖晃いるじゃん。あいつ、今バッハやってるじゃん。自分で不必要なモノ削ぎ落としたらバッハだった、って言ってるからさあ。バッハがあいつにとってどういう意味があるのか知らないけど、あの、発想は同じだと思うよね。まあ、こっちはクラシックやってるわけじゃないからだけど。
 篠田
清水さんは、クラシックの雑誌なんかによく紹介されてますよね。
 笹路
うーん。ま、サックスでバッハをやるってことが、チェロの無伴奏ソナタをやるってことが、どういう意味があるのかよくわからないけどね。でも、そこはなんかプライベートな事情があるじゃん、音楽家って。布川だって、事情があってこういうギターを弾いてるわけでしょ?それはもう、他人の入る余地はないってとこだよね。

 篠田
いやあ……、良かったですよ。久々にいろいろお話しできて。
 笹路
そうだねえ。まあ、ミュージシャン同士じゃないとねえ、なかなか細かいことから大きなことまでねえ。例えば取材なんかだったら、さっきのCマイナーの話しなんて、絶対通じないわけじゃん。
 篠田
いやあ……、良かったですよ。久々にいろいろお話しできて。
 笹路
そうだねえ。まあ、ミュージシャン同士じゃないとねえ、なかなか細かいことから大きなことまでねえ。例えば取材なんかだったら、さっきのCマイナーの話しなんて、絶対通じないわけじゃん。
 篠田
いやあ、あの言いづらいんですけど、オレなんか、笹路さんのプレイをコピーして育った世代ですからね、オレはそれで勉強してきたんですよ、ひとりで。自分がプロになるかならないかの、一番大事な時期に、オレの中には笹路さんがいたんですよ。で、それで得たモノって、自分の中ではすごく大きいなあって……。
 笹路
それは本当に嬉しいねえ。
 篠田
いま自分で編曲の仕事とかしている時でも、なんとなく笹路さんのサウンドを彷彿するんですよ。なんか、ん~?って思うときもあるんですけど(笑)。で、たまに笹路さんの昔のプレイなんかを弟子達に聴かせると“篠田先生に似ていますね~”って言われて(笑)。嬉しかったりするんですけど。
 笹路
それは本当に嬉しいねえ。
 篠田
いま自分で編曲の仕事とかしている時でも、なんとなく笹路さんのサウンドを彷彿するんですよ。なんか、ん~?って思うときもあるんですけど(笑)。で、たまに笹路さんの昔のプレイなんかを弟子達に聴かせると“篠田先生に似ていますね~”って言われて(笑)。嬉しかったりするんですけど。
 笹路
あー、そう(笑)。
 篠田
だから、自分の中でものすごい影響力があったと思うんで……。こう20年やっててまたお話しできるなんて、とても光栄です。
 笹路
うん、ホントにそうだね。僕なんか逆に、中学生の頃、佐藤さんなんか見てショック受けちゃった記憶もあるけどね。まあ、いろいろそういうのはあるよねえ。
 篠田
オレは笹路さんほどの天分があるわけじゃないから、いろんなことやってきて、ふっと気付いたとき、無駄だらけですよね。
 笹路
でもはたから見てるとね、そんなに詳しく篠田の仕事ぶりを見ているわけじゃないけど、いろんな話しを聞いたりさ、雰囲気とかね、雑誌なんかで見たりするとさ、やっぱり篠田は自分ができなかったことから出発してるよね。できないものを、ちゃんと見てきたから、できたことがいっぱいあると思うからね。ものすごい、正解の生き方だと思うよ。
 篠田
そうですか?ありがとうございます。
 笹路
うん、だから、ダメなヤツって自分ができることしかみないじゃん。でもいいミュージシャンってのは、自分のできないことをシッカリ見てるんだよね。さっきのヘタウマバンドじゃないけど、そういうことだと思うよね。だってマイルスだってさあ、ガルスピーみたいに吹けなかったから、ああいうふうになったんでしょ。
 篠田
うーん……。
 笹路
やっぱり、何ができるか、何をやるべきか、こんなの最初っからできないよーみたいのがあるわけじゃん。そういうのが、すごく強く感じられるからさあ。だからいいミュージシャンはみんなそうだよね。だからみんな、自分のこと、ダメだダメだ、っていうじゃない。アレ、ウソじゃないでしょ。
 篠田
そうですね(笑)。
 笹路
ほとんどダメだね、自分なんて。でも、ちょっとだけ、いいよね(笑)。そんなもんだね。
 篠田
でも、こうやって音楽ってカテゴリーで仕事できているだけで、とても幸せです。
 笹路
だってさあ、冨田先生とロンドン響でやったなんて、素晴らしいよ。今度、またゆっくり話そうや。
 篠田
今日は、お忙しいのに、長時間のおつきあい、ありがとうございました。

雑談を終えて

笹路さん(本来、先生と呼ぶべきですが、なんか距離ができてしまいそうで…ここは実はとてももどかしいんです)は、昔、プレーヤー&アレンジャーとして活躍していたとき、ものすごいパワフルな方で、本人も言われているとおり、とにかくイケイケのばく進の人だったように思えます。でも、今はとても落ち着いた様子で、穏やかな人柄です。正直言って信じられないくらい……。
プロデューサーとして多くの若いアーティストとともに仕事を続けてきたなかで、彼らを温かく見守り、その中で自分の音楽を押しつけることなく、ごく自然に表現していく。とてもすばらしい仕事をしています。笹路さんは音楽家としても、人間としても、とても大きな存在に見えました。もちろん、昔話となれば、長い年月も昨日のような感覚で話し合えます。そこがまたとても嬉しいところでもあります。
自分は、笹路さんの作り出す音楽に魅せられ、ただただそれに近づきたいと思い、ここまでやってきました。師匠というには、あまりに大きな目標ですが、こんな素晴らしい師匠を持ったことが誇りです。

ツーショット

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