第5回: 笹路正徳 氏

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対談の1週間後、六本木ピットインで渡辺香津美バンドの再演があり、その話題に入る

 篠田
久々のライブですね。
 笹路
それがさあ、香津美バンドでさあ譜面もらって。
 篠田
ガレーシアとかやるんですか?。
 笹路
うん、それもやると思うよ。なんかいろいろあって自分の中でよくわかってないっていうか。なんか難しくってさ、みんなでビビッてるんだよね。できねーんじゃ ないかって(笑)。
 篠田
リハは?
 笹路
リハ、ない。当日。だから今日これからね、渡辺香津美邸に打ち合わせに行くんだよね(笑)。
 篠田
一応練習も?
 笹路
するよ!そりゃしなきゃ!な~んかめんどくさい曲でさ、仕掛けもいっぱいあるし、コードも面倒くさいし(笑)。ギターの人が作る曲ってさ、発想が違うというか、まあ、それが面白いんだけどね。コードネームとね、メロディラインに対してどうヴォイシングするかって、特に指定がなかったりするとさ、これでいいのかなぁ~?って(笑)。いい加減な話しだけど、半信半疑なところ、いっぱいあるよ(笑)。
 篠田
ウーリッツアでやるって言ってましたけど?
 笹路
うん、だってウーリッツア、調整だしてバッチリ戻ってきちゃったもん(笑)。
 篠田
ミニムーグも?
 笹路
うん、あとオルガンも使おうかなって思ったけど面倒くさいからミニムーグだけでいいかなと思って。
 篠田
ビンテージですね。
 笹路
香津美さんって人はA型でカッチリしているから、しっかりやりたいんだよ(笑)。こっちなんかはさあ、セッションなんだから楽しくやりたいじゃん。こんな譜面凝視してなくちゃいけないような曲じゃ、自由度少ないじゃない(笑)。
 篠田
インプロバイズとかは、これだけ忙しいと最近練習する時間はないんじゃないですか?
 笹路
うーん。最近はそういう機会も少ないしね。だけど昔なんかはね、こういう曲ならこの辺でアウトするからこのスケールで、こっちのスケールに移って、とか発想としては前もって仕込んでおいたりはしたけどね。でも、まあフリーが好きだから。
 篠田
うーん……楽しみですね。
 笹路
いやいや……。まあ、だから今回は仕掛けが一杯あるから、いかにぐしゃぐしゃにしてフリーに持っていけるかってのが、こっちの課題なんだけどね(笑)。
 篠田
録音とかはしないんですか?
 笹路
商品にするとか、そういうのはないでしょ。でもああいう音楽ってさあ、当時の時代背景から成り立っていたようなものじゃない。ビバップみたいに色褪せないカッコ良さとか、そういうのともまた違うしね。だから今やると、なんかシラけちゃう部分とかがどうしてもあるよね。自分がやってたからかもしれないけどさ。
 篠田
今は自分の中で、そういう音楽を演奏するということを趣向したくないということですか?
 笹路
それはどこに楽しさをつくるか、じゃないの?その中でそうやって楽しくやっていこうかなってまず考えるよね。約束事はハイハイって適当に無視すりゃいいかなって(笑)。
 篠田
ちょっと具体的に聞いてみてもいいですか?例えばCマイナーが4小節が並んでいて、今なら、どうアプローチします?
 笹路
んー、まずおっきな外側からの話しになっちゃうんだけどね。さっきモンクがやっといいと思えるようになったって言ったけど……、好き?モンク。
 篠田
あまりわかんないです(笑)。ああいう風に弾きたいとは思わないけど。
 笹路
あ、まだそうなんだね。オレもね~、あれよく鍵盤と鍵盤の間の音を探してる、なんて言われてたけど、あんなの単なるミスタッチだと思うし、全然キレイに聴こえないじゃん。だけど、40過ぎて、コレはホントにいいんだぁ!って思うようになったんだよ。なんでかっていうと、自分の必要でない要素は、一切なくていい人なんだよね。要するに、無駄なものを全部そぎ落としたスタイルなんだよ、あれ。
 篠田
そうなんですか……。
 笹路
だってさ、マイルスだってなんだって、モンクはイイ!って言ってるんだからさ、良いに決まってるじゃん(笑)。だから、こっちがわかってないだけだよね。まあ、芸術ってそんなものじゃない?。好きです、嫌いです、なんて言っちゃいけないんだよ。“スイマセン、わかりません”って言わなくちゃ(笑)。
 篠田
ははっ(笑)。
 笹路
もっとレベルが低いものなら、好き嫌いって言って良いと思うけどね。わりと年とってくるとさー、ちょっとカッコつけるとか、華美にするとか、全然どうでも良くなってきちゃうじゃん。なんかひとつ、どうしてもやりたいってものだけやるって方が、良くなってきちゃうよ。だから、モンクとか、マイルスとかもそうだけど、不必要なことやらないじゃん。表面的なことじゃ、ないよ。
 篠田
その不必要なところ、ってのが……。
 笹路
もちろん、ただバラバラ吹くのが不必要、ってわけじゃないよ。マイケル・ブレッカーだって不必要なことやってないと思うしね。
 篠田
そこは僕にはもう少し説明が必要かな(笑)
 笹路
イヤ、オレもそこはよくわかんないけどね(笑)
 篠田
(笑)、そこでCマイナー4小節は(笑)。
 笹路
あ、だからそこでその話しにもどるとね、まずオレだったらビバップのフレーズは弾かないよね。パーカーフレーズとかね。
 篠田
いわえる分散系は使わない、ってことですか?
 笹路
うん、あのいわゆるチャーリー・パーカーの意気込み的なね、ツー・ファイブに代表されるような、ああいう節回しのフレーズだね。あれはなるたけ弾かないようにしようと思うよ。
 篠田
笹路さんには、昔、その辺を教わりましたね(笑)。
 笹路
あとはコードワークとかはさ、ハービーやチックのようなモダン・ジャズの巨匠が過去において確立したものも良いんだけど、そうじゃない方法で、なんかジャズっぽいことができないかなあって思う。
 篠田
うーん……。
 笹路
まあ、ないはずなんだけどね。そんなのできないんだよね、難しいから。だから結局聴いているようなもんになっちゃうんだけどー、でもそのくらいの覚悟は一応しておいても良いじゃん。
 篠田
ふーん……(笑)。
 笹路
だからCマイナー4小節で何を弾こうかというと、なるべくそういうことを落とし穴だと思って、よけてよけて何やるか、だからさ…。結局、何にも弾かないかもしれないけど(笑)。
 篠田
(大笑)
 笹路
ま、最終的には開き直って感性で、ってことになっちゃうけど……。何弾くかってのは……。だからそこでバップ・フレーズなんか弾いたら自分でもシラけるからね。なんかイモな日本人ってのはさ、すごーくテクニックがあっても、そういうすごくアウトしたモーダルなフレーズの中に、チャーリー・パーカーが入ってきてみたり……、全然スジが通ってないと思うんだよね。
 篠田
うーん……。
 笹路
好感持てる人ってのは、そうじゃないから。だからマイルスとかすごいよね。ウィントン・マルサリスなんてあんまり好きじゃないよ。まだまだ子供のように思えるよね。
 篠田
ふーむ……。若いですかねえ……(謎)。
 笹路
話は戻るけど、Cマイナー4小節なら、まずひとつイメージとしてあるのはフリーだよね。ジャズっぽいような究極のフリー……。なんかジャズってさ、いかにその中で自由になるかじゃない。
 篠田
ふーむ。
 笹路
あとはね、そうだねー、ヨーロッパの音楽の感じかなあ。アメリカなんかのエネルギッシュな前進的なものよりは、ちょっと冷めてるのかもしれないけど、イメージとしては絵画的というか……。盛り上がってないとかじゃなくて、ちょっとコラージュ的に変な音が貼り付けてあるような、そんな感じかなあ。だからさあ、インストのバンドなんかやってると、そこが大変でしょ。何やるか。
 篠田
ええ……、だからもう、ジャズっぽいモノだとパターン化されちゃうんですよ。例えばCマイナーなら左手は……なんかこう押さえちゃう。だから左手でこう押さえちゃうと、右手はそれにそった形というか、コード分散がイメージしやすいとかになっちゃいますよね。だから、これがフリーになるって言うと、結構とんでもないところいっちゃうとか。
 笹路
でも責任もっていれば、とんでもない方向にいってもいいんだろうー。だから軽薄でとんでもない方向に行くのは最悪なんじゃないの?まあ、ピアノだとさあ、左手押さえて、それに条件反射的に右手のフレーズが出るってのが、ひとつのパターンだよね。左手、しっかりコードを押さえてると、右手は不思議と楽にできるんだよなあ。だって、こっち違うコード弾いて、こっち違うフレーズって、弾けないようになってんじゃない(笑)。
 篠田
そうですねー(笑)。
 笹路
だから、それがヤバイ気がするんだよね~。うわー、なんか聴いたことあるようなフレーズ弾いてるよ~とかさあ。ダサいじゃん、やっぱし。何か、指なんかもあんなに速く動かしても仕方ない、って気がするし。そう言う意味じゃ上手い人はたくさんいるよね、佐藤允彦さんとかさ。あの人は楽器の天才だよね。
 篠田
佐藤先生のプレイは、やはりすごいですよね。
 笹路
最近は若い人でも上手い人もいっぱい出てきたね。カッチリと弾くじゃん。布川もそういうタイプだよね。ひとつの音も、ひとつのリズムも外さずにさ、幾何学的というか……、完璧を目指していくよね。別にそれが悪いとはいわないけどさ、オレにしてみれば余分なモノが多い気がしちゃうんだよね。ま、若者はそれでもいいんだよな。エネルギッシュに突き進んで。40過ぎるとちょっとは音楽わかってこなくちゃ、と思うよね。
 篠田
僕はまだ全然、そのフォーカスを絞りきれないですね。笹路さんの話し聞いると、余分なモノ削ぎ落とすってのは……。コードで言えば、積み上げの理論に相反することですよね。
 笹路
いや、でもね、その積み上げるってことを考えるとね、ジャズとクラシックは積み上げる音楽だと思うよ。ロックってのは、もっと違う理論あるよね。ジャズやクラシックなんかの、和声楽的な理論でね、コレは3度があった方がいいかどうかって議論はあんまりないよね。3度は当然あって、7度もあって、そっから先、どうやってテンション入れるかっていう……。オミットするかアボイドするか。
 篠田
そうですね。
 笹路
だけどロックじゃ、ダメよーそんなところに3度入れたら~、ってのが理論じゃない。だから、そういう観点では全然違う価値観があるよね。
 篠田
それに関連してちょっと聞きたいんですけど、ポップスの曲想によっては、GかG7かで迷うときないですか?
 笹路
すごくある。そこ、重要なんだよ。だからジャズなんかだったら当然7th入ってくる、狭い範囲内での理論の中では当然入る、積み重ねていく音楽だよね。だけどポップスでは、7thいれちゃダメ、ってのものすごい多いじゃん。3和音じゃなくちゃいけないとか、1度5度でなくちゃいけないとかさ。
 篠田
そこは大きいんでしょうね。
 笹路
だってさ、ドレソってコードは何さ?って。ジャズでどう説明すんのっていったら、add9なんて書くよね。あれって理論じゃあんまり説明つかないよね。だって9thの三度堆積で、7th、その次の9ってニュアンスじゃないじゃん。
 篠田
そうですね、ベースによってもいろんなコードになりますしね。
 笹路
そうだね、Gsus4にもなるわけだし。……だから何かの代理コードって言うか、ジャズだとドレソはCadd9だから、そりゃCはトニックだからね、CM7入れちゃったっていいんだよ、って理論になりがちだよね。まあ、バップの理論だけどね。
 篠田
笹路さんもジャズ、ずっとやってきたわけじゃないですか。ちょとニュアンスが伝わりづらいかもしれないけど……、ルートでメロディが伸びる、もしくはルートで終始するみたいな音楽って、最初凄く抵抗なかったですか?
 笹路
昔、アレンジャーの駆け出しだった頃ね、やっぱこっちも20代じゃん。自分の好きな複雑な音楽にしようかって、ずっと思ってたのよ。アイドルの仕事やろうが、何しようがさ、ヒネりゃいいって思ったんだよ。だから、コードひとつにしてもさ、ちゃんとトニック・マイナーで終わったりとか、そういうの大嫌いでさー。絶対終わってないコードで終わらせたりして、ディレクターに“ちょっと難しすぎませんか~”って言われてさ。ダッセーなあ、って思ってた時期もあったよ。
 篠田
うんうん(笑)。
 笹路
だから、そうゆうのわかるよ。だけどね、今はアレはアレで若かったなと思うよね。良かった部分ももちろんあったと思うけど、的外れなことも多かったなって自分で思うけどね。振り返るとさ。
 篠田
何がきっかけで、そういう意識転換をしたんですか?
 笹路
30過ぎた頃かな……、だんだんやすらぎや精神的な安定を求めるようになったというか。20代から30代の前半くらいまではさ、刺激を求めるじゃない。ジャズやクラシックは積み重ね音楽だから、うわ、こんなテンションかっこいい!とか、こんなボイシング知らなかった、かっこい!とかさ、若いから知識欲がすごいじゃん。だからどうしても興味がそっちにいくでしょ。だけどさ、35過ぎてルイ・アームストロングの「What a wonderful world」なんてどこがいいのか、メロディ・ライン見たってコード進行見たって、理論の先生でも分析できないよ、ここの音がいいです、なんて。
 篠田
うーん。
 笹路
このテンションが入っているからいいですとか、ここ転調してるからこれがピボットで良く聴こえるんですとか、ここで#11thが入っているから開放感が出せるですとか、そういう説明がなにひとつできないのに、良い曲って一杯あるよね。童謡みたいなの。
 篠田
うーむ。そこはよくわかりますけど。
 笹路
だから、そういうのに興味持つとさ、やっぱり単純なものってのは良いんだよ。もちろん複雑なのも好きだよ。ラヴェルなんて超複雑だし、ひとつひとつのメロディは単純なものから派生しているのかもしれないけど。
 篠田
それはさっき笹路さんがおっしゃった、30になっても40になっても……、要は経験を積むって事ですよねぇ。経験を積めばつむほど削ぎ落とされていくというのは……。
 笹路
だから、音数多くたっていいんだよね、別にね。難しいコード入れようが、ぐしゃぐしゃになろうが、不必要なモノがなければいいわけで。
 篠田
やっぱり、ちょっと難しいかな(笑)。
 笹路
ただよく見るのが、3流のジャズの日本人がなんかそうゆうパーカー・フレーズを弾いてみたり、チック・コリアみたいなフレーズ弾いてみたりってのは、あきらかにおかしい。だから日本人は聴けばすぐわかるじゃん。だから、最近の若い人のジャズとか聴いてもあんまり面白くない。
 篠田
ジャズの場合、例えばそっくりさんとかあるじゃないですか。大変失礼ないいかたですけど、笹路さんが昔やってたNEXT PAGEを聴いたとき、ウェザーのコピーだなって思ったり(笑)。
 笹路
そりゃそうだよねえ、あれは確信犯でやってたし(笑)。
 篠田
だから、そういうのは、リスナーがむしろ近いからってことで入りやすいこともあるじゃないですか。例えば笹路さんがハービーっぽく弾けば、“あ、この人ハービー好きなんだな”って部分がわかってくるとか……。そこに近親感みたいなものが感じたり(笑)。昔の笹路さんのそういう面に魅せられたものですよ(笑)
 笹路
あのー、いまオアシスみたいのがいてね。やっぱりビートルズ好きな訳じゃない。そういうビートルズ・フォロアーみたいなバンドが今でもたくさんあるけど、例えばビートルズに関して言えば、あれはひとつのフォーマット化された面があって、だから似てるからってけなす必要はないと思うんだよね。
 篠田
ええ。そうだと思います。
 笹路
そんなこと言ったらさ、ジャズ・ピアニストなんてみんなバド・パウエルに似てるわけじゃん。だからチャーリー・パーカーみたいだって、ソニースティットをけなすヤツもいないでしょ。やっぱ、天才が切り開いたところにフォロアーがいてさ、それを形作るってのは、まあ芸術のひとつのやりかたじゃん。だってゴッホだってミレーを習作で描いてたりするわけだし。ひとつの練習とか技術を高めるという意味で、リスぺクトしてそのスタイルを責任持ってね。なんか、頂いちゃって、っていうのはあんまり良くないかもしれないけど、まあそれも微妙だけどね。スタイルとして誰かに近い、っていうのは全然アリだよねえ。その対象があまりにも変じゃない限りね。
 篠田
そこのサジ加減とオリジナリティの問題なんでしょうね。
 笹路
まあ、あまりに極端だとマネっぽく聴こえちゃうのかもしれないし……。

 篠田
話し変わりますけど、例えばアレンジする場合、アレンジャーとしての個性の出しどころって、一般的にはハーモニーだったりリズムだったりするわけじゃないですか。もちろん楽曲を一番良くする方法を考えるわけでしょうけど、その中での個性の出しどころはどういう視点で考えていますか?
 笹路
うーん、15年前くらいだったらさあ、オレは笹路だって言うのがあればね、ここで意表をついたコードを出しちゃうもん、とかさ、ピアノ・ソロだもーん、っていうのがあるのかもしれないけど(笑)、今の時代はそうじゃないと思うのよ。結論から言えば、自分らしさを出すか出さないかって言うのは、サウンドだよね。作品をつくるとしたら、サウンド。
 篠田
具体的には……。
 笹路
サウンドって言うのは、漠然とした言い方だけど、音色だけってわけじゃないよね、アレンジもあるし、レコーディングの仕方。周波数バランスと和声的なのが合致しないとサウンドにならないじゃん。だから、非常にオーディオ的な音響学的なことと、アレンジ、譜面のアイディアが合致しないとダメな時代じゃない。だって、クラブ系の曲って言ったってクラブ系のサウンドでなければ、同じような譜面書いたってこんなのダメだよ~って言われるでしょう。だからやっぱり、サウンドだと思うんだ よね。
 篠田
じゃあ、当然、起用するミュージシャンやエンジニアによっても大きく変わってきますよね。
 笹路
もちろん。この企画だったら、やっぱりこの人でなくちゃダメってのはあるよね。
 篠田
例えばクインシー・ジョーンズなんかだったら、聴けば、すぐクインシーのサウンドってわかりますよね。そういう狙いみたいなのがあるんですか?
 笹路
そこでね、具体的に自分のサウンドを聴いてすぐわかるってのとは、ちょっと違うんだよね。僕の場合、別に僕だってわからなくったっていいんだよ。
 篠田
ふむふむ。何ででしょうか(笑)。
 笹路
だからもっとわかりやすく言うとさ、こっちは音楽を作るわけじゃん。シングルだったら何分何十秒って中で、聴き手に対して印象を植え付けられるかっていうようなものを作るのが音楽であり、サウンドじゃない。だからそういうのを、例えば松田聖子だったらね、誰かの曲をアレンジして下さいってきたらさ、まず状況を考えるよね。まあ、つまんない曲だったとするじゃない、今時よくこんな曲やるね、みたいな(笑)。だとしたらどうするか。例えばアルバムなのかシングルなのかも考えるよね。あとはイントロでつかむか、とか。サビあたりでつかむのかとか。間奏後か、終わってからなのか、とか。だから、当たり前のことってのはやっぱりしちゃいけないと思うのよ。驚かしてやろうとか、人と違うことしてやろうみたいな気持ちは持っていた方がいいよね。それがたまたま何の変哲もないただのフォークソングになっちゃったとしてもね。まあ、それはやっぱりいつでも“すきあらば”みたいな体勢にしておかないとね。自分を裏切らないと、面白くないだろうし……。
 篠田
例えば、笹路さんは前田憲夫さんとか、宮川泰さんみたいなアレンジャーになりたいって思うことありますか?(笑)。
 笹路
全然ないよ。まずひとつは、前田さんは好きでも嫌いでもないけど、ちゃんとしてるよね。今ふたりの名前が出たけどね、彼らの音楽、全然いいと思わないの。服部さんだって、全然良くない。だから日本人でいうと、ちょっと難しいかなあ。
 篠田
そうですか……。
 笹路
でもさあ、そうは言ってもそれこそクラシックのスコアなんて見てるとさ、逆立ちしたって書けないよぉっていうわけでさ。もう天才なんてもんじゃないくらい天才でさ。だからそこで自分がどこいくかっていうことを考える……。だって篠田だってそんなこと、イヤって程考えたはずだよ。自分が何ができるかってことでさ。たいしたことないじゃん、自分なんて。だけどさ、何かちょっとだけは誰かに負けない気がするところがあるよね。だから、そこをね、出せたらいいなと思うよね。そう言う意味で言うと、いろんなもの削ぎ落とした方が、そう言う部分が見えやすくなってくるよね。いろいろガチャガチャ、バタバタするよりかはさ。
 篠田
なるほどね……。
 笹路
そうすると、もしかすると、勝てるかも知れない。……ていうふうには思うけどね。だって、フルオーケストラとか好きでさ、一応参考で何してるのかなって見たりするじゃない。でもあの人達は何年もかけて書いてるわけじゃない?こっちは2~3日で5分くらいの書かなくちゃいけないからさあ……。2~3年もかけて書いてたらさあ、ごはん食べらんないしね(笑)。なんか、そうゆう現実問題ってキビシイよね。でもまあ、2~3年かけても、書けないものは書けないだろうし、モーツァルトなんて早かったわけでしょ?すぱーっと書いちゃう訳でしょ。

 篠田
あの、笹路さんが言っていた“余分なものを削ぎ落とす”っていうのを拡大解釈しちゃうと、オレは笹路さんをもともと名キーボーディストだと思っていて、あと作曲や編曲したり、そういった流れで、どんどん総括的に音楽を見るっていう仕事に集約されてきたと思うんです。ただ、そのなかでも、プレーヤーという面を、もっとアピールしてもいいんじゃないかな……。
 笹路
それは、人前で弾いて喜びたいってことだよね。
 篠田
そうですね(笑)。例えばデヴィット・フォスターも自分の曲のピアノのインスト・アルバム作ったりとか。プレーヤーであるという一面としての自己主張はどうなんでしょうか。それは削ぎ落とすって言う……
 笹路
それはね、この間ビル・エヴァンスのトリビュート・アルバム作ったときはね、すごく楽しかった。久しぶりにやったしさ。あれは楽しかったねえ。うん、でもそうくると、さっき言ったピアノが好きか嫌いかっていう話しになっちゃうんだよねえ。どーもね、ピアノって言う楽器がね、なんでもできちゃう小さいオーケストラっていわれるくらい、音域はどの楽器よりも広いわけじゃん?和音も弾けちゃうし。テクニックさえあればすごいオーケストレーションも弾ける訳じゃない。なんかそれがねー、あと音程の問題もあるよね。間の音がでないっていうか、誰が弾いてもしっかりした音がでるし。そういうのがね、どーも自由度の少ない楽器のような気がしちゃうんだよね。
 篠田
やはりそこに戻りますか(笑)。
 笹路
いや、そんなことはないんだけど。僕の偏見だから。なんなんだろうなあ、音色が好きじゃないのかなあ。
 篠田
オレはもっと笹路さんにプレーヤーの面を出してほしいんですけど(笑)。話しを変えましょうか(笑)。笹路さんと昔話したとき、アレンジ・ワークの中では、サンプリングされたピアノを使うのは寂しい、って言ってましたよね。
 笹路
いや、今はわざと使うときもあるよ。それじゃなきゃできない時もあるから。まあステージは別として、レコーディングでね、アコースティクのピアノの音がほしいときは、代わりとしてはまず使わない。まあ、オレもキーボーディストの端くれだからね、シンセサイザーとかは絶対否定しないし。サンプリングだからこそ面白いってこともあるしね。
 篠田
ピアノの音色が好きじゃない、っていうのはウソですよね(笑)
 笹路
あ、やっぱりそうなんだろうね(笑)。オレねえ、セルジオ・メンデス大好きなんだよね。ボサノバ、好きだし。セルメンてね、小学校の高学年くらいから好きだったんだよ。
 篠田
ピアノっていうよりもローズですか?
 笹路
ピアノだよ。ローズ弾いてるのもあるけど。で、通なサンバ派とか好きな人だとさあ、もっと土着っぽいのもいいと思うんだけど、セルメンなんて軟弱なサンバじゃない。
 篠田
ポップスですからね。それでいて独特のムードもあるし。僕も結構好きですよ。
 笹路
まあ、イージーリスニングみたいな。だいたいアレってクリードテイラーだったりしてるんだよね。55.66ってね。CTIみたいなもんだよね。今聴いても良いんだよねえ。セルメンって。もんのすごくピアノ上手いよ。昔はよくわからなかったけど。だからそういうんだと、ピアノ好きだよね(笑)。
 篠田
自分でプロデュースしたりアレンジしたりするときは、笹路さんも弾くわけじゃないですか。
 笹路
あ、弾く弾く。人は絶対呼ばないから(笑)。
 篠田
それって、自分で弾かないと気が済まないわけですよね。
 笹路
そう、人のピアノは嫌いだから。自分で弾かないとダメだね。やっぱり微妙だからさあ。
 篠田
そこに自分らしさを出そうってことですか?
 笹路
そうじゃない、音楽作る上で自分が弾くのが一番良いから。篠田もさあ、自分でアレンジして弾かすってこと、結構あるの?
 篠田
いえ、やっぱり納得いかないと言うか、違うというか……。
 笹路
あとずるいんだけどさ、自分でアレンジするとさ、ピアノ譜って一番書くの面倒じゃん。人に弾かすときはちゃんと書かなくちゃいけないけど、自分だったらそんなのいらないから、楽なんだよね(笑)。かなり低次元な話しなんだけど(笑)。でも、わかるでしょ、この気持ち(笑)。

笹路正徳

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