第6回: 矢堀孝一 氏

篠田 篠田
ちょっとさ、せっかくだからマジな音楽談義でもしようか。まず、なんかさ、スケールとかテンションとかのアプローチの考え方が少し似ている気もするよ。
矢堀 矢堀
ま、「実践コードワーク」、ウチにもありますからね(笑)。コード・チェンジに関して「意表を付く」というか、そういう意味での原理は似た感じがあるよね。ドミナントを極力避ける、とか。でもなんか篠田さんと僕とはきっと決定的な違いがあると思うよ。
篠田 篠田
たぶんね、どんな複雑なプログレッションを作っても、頭には、実はいつもデヴィット・フォスターみたいな思考がある(笑)。キャッチーなメロディがあれば、その中に高度な展開を封じ込めるみたいな・・・。だからジャズも、ロックも、プログレも、どんな曲を書いていても、どれも自分にとってはみんなポップスみたいな感覚があるんだよね。ジャズとかフュージョンやってる感覚があんまりないの(笑)。その辺がyaboとか水野さんなんかと違うのかもね。
矢堀 矢堀
デヴィッド・フォスターかあ。意外な感じだなあ。ワシはねえ、うーん、どうかなあ、難しいとこだけど、あんまり「ジャンル」みたいなことは考えたことないよね。例えば「ジャズを作るからジャズ的な作り方をしよう」とかそういう風に思ったことないしね。勿論ポップスだと思ったこともないけどね(笑)。
篠田 篠田
自分のなかにはね、ジャズとかフュージョン系なら同じコード進行を使ってソリストで回す、というジャズ屋的な発想があまりないのよね。だから、大半の曲は、ソリストが変わればコード進行も変わるし展開も変わる、イントロもエンディングも別素材って発想なんだ。そういう意味ではプログレ的思考かも(笑)。
矢堀 矢堀
確かにそういうタイプの曲が多いよね(笑)。だから構成が複雑だし、テーマも簡単に弾けるようなものじゃない(笑)。
篠田 篠田
でも、これからは少し変わるかも(笑)。例えばライブなんかで、みんなのようなレベルの高いミュージシャンと一緒に演奏すると、構成も進行も基盤はシンプルでも、いろんな世界が展開されるというのをたくさん体感しているからね(笑)。また違った嗜好を考えているところなのよ。
ところでさ、「PIVOT」の最初のソロ冒頭のCトーナル(C一発)に対するアプローチを具体的に話してちょうだい。
矢堀 矢堀
照れるな~。基本的にはあれじゃないすか、リディアン7th。好きなんすよ、リディアン7thって。まあギタリスト的にマイナーペンタというのは自動的にやってしまうのですが、そこへそういうスケールの響きとかでテンション感を出すっちゅうか。
篠田 篠田
リディアン7thか。確かに#11th系は最近のyaboの趣向を感じるね。ペンタトニックを基調としたなかに、この一音が入るだけで世界は変わるからね。
矢堀 矢堀
そうなのよ。篠田さんは、あそこはどうしてる?
篠田 篠田
ソロを入れる前にクラビでC7一発みたいなバッキング入れたちゃったものだから、今聴くと、冒頭はC7のブルーノートペンタっぽいけど、Cm7だったり、Cフリジアンだったり、もうぐちゃぐちゃにミックスしているみたい(笑)。勢い任せだね。あ、表・裏のトライアドを交互に弾くようなコンディミやユニット・フレーズは笹路師匠からの影響大だけど、最近、yaboもライブでよく弾いてるじゃん。よくあれに触発されて一緒に掛け合いになるし(笑)。
矢堀 矢堀
しまった~(笑)。
篠田 篠田
「Light Pink」はどう。いつもベーシストからは不評の(笑)。僕はね、別に奇を衒って作ったつもりはないんだけど……。スティールパン・ソロのバック進行の「E♭△7→Am7→B♭7→Cm7 / G (on B)」という進行で既に嫌われる(笑)。
矢堀 矢堀
嫌われるだろーねー。Am7への転調がポイントだと思うけど、ベースライン形成は骨を折るどころか文字通り骨折するらしい(笑)。テンポも速いし、絵が書きづらいんだろうね。ソリストは例えばG音だけガガガーとか弾いてればオッケーだったりするけど、ベースはそういうわけにいかんしね。でも、アルバムでもソロしてみたかったかも。しかしさ、あれは篠田氏の中ではやっぱり自然だったりするんだろうね。
篠田 篠田
全然、自然だよ(笑)。たぶんね、ルート・モーションはすっ飛んでいるけど、ボイシングの流れ、つまり内声は自然に流れているんだ。なんで、ここをベーシストは理解してくれないんだろう(笑)。チック・コリアの「ハンプティー・ダンプティー」みたいなものなんだけど。僕からすれば「ジャイアント・ステップス」の方が違和感ある。コルトレーンだってコード毎に“ドレミソ~”って吹いてるの、あまりカッコいいって思わないもん(笑)。とにかく「Light Pink」はさ、(渡辺)建さんからは譜面を見て即、“参りました”って電話が入ってきたし(笑)、水野さんもレコーディングは涼しい顔して、すごいプレイをしてたくせに、この間のライブでは文句タラタラだったじゃない(笑)。こうなるとマジでやりたいっす。あの曲は(笑)。
矢堀 矢堀
でもね(笑)、確かに難しいと思えるよ、あれは(笑)。「ジャイアント・ステップス」とかって、割ときちんとインサイドに弾くとコードのモーションが勝手にかっこよさを出してくれるっちゅうか、そんなんでよかったりすることもあるんだよね。「Light Pink」はねえ(笑)、インサイドに行ってもなんか報われないっちゅうか…、どーなんだろーねえ。ワシがフレーズしてるのとか聴いてどう思う?
篠田 篠田
実はあの進行好きなんじゃないか、て感じで弾きまくっているじゃん(笑)。ホントは好きなんでしょ?あの進行(笑)。yabo独自のアプローチとうまくマッチしてきた感じがするよ。がんじがらめに縛られた鎖が切られたいさぎよさを感じるもん(笑)。
矢堀 矢堀
そりゃ、どうもです。がんばりやしょう(笑)。次に「Urban #2」のピアノ・ソロ、いい感じだけど、あそこのコード進行もいかにも篠田さんっぽいよね。
篠田 篠田
あれはFm7-B♭7の次に、Em7 (on A) – A7ってくるところがポイントでしょう。置換ドミナントのツー・ファイブ化。考えてみれば、それほど新味ないけれど、テンションの使い方によっては、ちょっとおしゃれなムードになれる。
矢堀 矢堀
ジャズ屋にはヨダレが出そうなたまんねー進行だね(笑)。ワシもあそこでソロやりたい(笑)。
篠田 篠田
そうでしょ(笑)。布川(俊樹)さんと一緒にあの曲やるときは、布川さんがあの進行でソロを奏るんだけど、完全に“水を得た魚”状態になってるの(笑)。だから自分アルバムだから、あそこは譲らない(笑)。でもね、バップ・フレーズとか使って、いかにもツー・ファイブっぽくは弾きたくなかったのよね。だから頭の中は、Fm7ならE♭△、B♭7ならG△とか、どのコードもアッパー・トライアドをイメージして弾いてるんだ。テンション感を高めるために。
矢堀 矢堀
そういう発想は僕にもあるね。逆に分数コードの1コードのテンション化とかもあるしさ。
篠田 篠田
そうだね。yaboの譜面を見ると、よく分数コードが通常のテンション・コードに書き換えられてるよね(笑)。「Urban #2」っていえば、yaboソロのところのコード・チェンジもちょっと凝ったんだけど、Eマイナー・ペンタ的にも弾けるよう工夫をしてあるんだ。だからyaboもEマイナー一発的にくるんだろうなぁって考えてたけど、音使いはBマイナー・ペンタの臭いがするよ。
矢堀 矢堀
僕は基本的にペンタ野郎なんです(笑)。でも特に最近ペンタトニックの、と言っても勿論、単一のペンタを弾き続けるのではなく、断片化したテンション・モジュールと言う感じのペンタね、そういうのに興味あるんです。
篠田 篠田
ふむふむ。恐るべしペンタトニック。奥が深いよね。いろんなアプローチがとれるからね。ここを述べたら、それだけで1冊の本が書けるから「新・実践コード・ワーク4」が出たら、それまでネタにとっておこう(笑)。
矢堀 矢堀
そのときはカコミで僕の思考も述べたい(笑)。あ、「Urban #2」は、なんで#2なの?#1もあるのかな。
篠田 篠田
はは~。ないよ(笑) 「Urban」って喫茶店、僕たちが講師をしているメ-ザ-ハウスの近所にあるでしょ。それとも全然関係ない(笑)。
Urban
メ-ザ-ハウスの近所(池尻大橋)にある喫茶店「URBAN」。ここでドラムの熊谷(徳明)くんは、よく生徒と一緒にたむろってます。篠田もたまにここでカレーセットを食してる(笑)。
篠田 篠田
あれはね、数年前、幕張メッセのイベント出演の帰りの湾岸道路を走りながらイメージを作った。だから車中BGMには最適の曲になるはず(笑)。都心を照らした夕焼けが印象的だったので、そのときのモチーフが#1、で、曲が完成したら#2になった。本来はVer.083とかVer.1.01とかでも良かったんだけど、やっているうちにそうなったらしい(笑)。そういえばさ、yaboのソロ・アルバム名の“B”、メーザーの地下にある料理屋の名前じゃない?(笑)。
矢堀 矢堀
あ、バレた?(笑)。
篠田 篠田
先日ツブれてしまったよ(笑)。メ-ザ-ハウスの先生もあそこであんまりお金を落とさなかったからねぇ(笑)。で、話題を戻すと、yabo曲の「Caribbean Funk Method」のソロは結構大変だったのよ。あの進行は難しい~。
矢堀 矢堀
あれは、ワシも最初は全然できんかったのよ。で、ライブで何回かやって、Cmaj7(b5)ちゅうのを無視して、Fm7→Emajちゅうプログレッションに単純化するっちゅうのを今はやってるね。ま、Cmajはほんの一瞬だし(笑)。しかし、何なんだろうね、あのCmaj7(♭5)。
篠田 篠田
アンタの曲やろ~(笑)。ソロの収録のとき、僕もあれはほとんど無視。邪魔くさいコードだね(笑)。でもね、Cmaj7(♭5)を強引にE7(9,♭13)と捉えれば、Eリディアン7thの世界にもっていけてスケール・チェンジが少し楽になる。
矢堀 矢堀
得意のペンタでいうと Bマイナー・ペンタというわけだけど、寧ろ、Bメロディックマイナーか。なるほど。
篠田 篠田
yaboの「窮鼠猫を噛む」みたいな曲もやってみたいね。フラジャイルのデビュー前に一緒にやったもんね。
矢堀 矢堀
あれねえ、この頃の結論としてはやっぱ水野さんのカラーが絶大なんだよね。だから他のベーシストの時はやらないことにしてたりするんです。たとえば、あのDペダルのとことかあるっしょ。ああいうの、うまいんだよねえ、水野さんは。ベース、Dの白玉しか書いてないとか、そういうときの世界の作り方っちゅうかねえ。だからあーゆーのをもっとシンセがゴージャスにあるっちゅう前提でまたそれはそれで作ってみようかなとか思うけど。
篠田 篠田
確かに、野放し状態の水野さんは、妖獣化するからね。「Crax」のバトル部もそうだった。そう言えば、あの曲のyaboのフレーズ・アプローチもカッコいいね。ちょっと頭良いギタリストじゃないとあのフレーズは出てこないでしょう。
矢堀 矢堀
あれもリディアン7thかも(笑)。全然アタマ良くないじゃん(笑)。
篠田 篠田
でもさ、リディアン7thは、スケール後半のテトラはコンディミだから音使いによってはユニークな世界になるよね。
矢堀 矢堀
また得意のペンタ(笑)だけど、CリディアンとかCリディアン7thにはDペンタやDトライアドが入ってるでしょ。あれが結構使えるんだよね。
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